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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)14253号 判決 1969年5月28日

原告 大洋産業株式会社

右訴訟代理人弁護士 鈴木保

被告 三菱樹脂株式会社

同 田中勉

右訴訟代理人弁護士 中村誠一

同 長島安治

同 田中隆

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

第一、本件手形振出の経緯について。

<証拠>を総合すれば次の事実を認定することができる。

一、訴外会社は昭和三七年中頃から被告と取引を始めたが、訴外会社は経営の必要上、被告から資金援助を受けるようになった。然るに訴外会社は昭和三九年五、六月頃より経理面での不安、借入金返済のための資金不足、さらには融通手形の振出等のため経営状態が悪化し、そのため被告と相談の上、訴外会社の融通手形の振出を防止し、経営の健全化を図る手段として被告が訴外会社の手形振出の際に用いる代表取締役の印鑑を預かることにした。

そして訴外会社が手形振出の必要ある場合には、同会社において手形用紙の各要件欄を記入のうえ、これを被告会社財務課に持参し、同課においてそれが商取引の裏付けのある商業手形であるかどうかを確認し、その上で訴外会社より預かっている前記代表取締役の印鑑を押捺して訴外会社に手渡していた。そして、その際右確認を証するため田中課長又は同課員の認印を手形面上に押捺していた。

二、他方、原告会社はもと新光産業株式会社と称していたが、昭和三九年八月頃訴外会社よりポリエチレンの原料三五トン価格五、〇〇五、〇〇〇円の注文を受けた。しかしながら原告はそれが訴外会社との取引としては初めてであったため、同会社の経営内容につき興信所や取引銀行にたずねて調査したところ、その内容に不安を感じたが、訴外会社の印鑑を被告が預かっていること、被告が訴外会社の債務を保証し、資金の援助を与えているとの報告に接し、かつ原告代表者が被告の田中財務課長にも面談して、両者のこれまでの関係を聞いて、その支払の確実性を信じ、訴外会社の本件ポリエチレン原料の取引をなし、本件手形の交付を受けたものであるとの事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

第二、そこで、原告主張の如く、被告が本件手形上の債務につき重畳的債務引受ないしは連帯保証をしたかどうかにつき判断する。

原告は右主張の根拠として本件手形面上になされた被告の田中財務課長又は同課員田口の押印の存在をもって、被告が支払保証をしたと主張するけれども、

一、証人平圭介、同田中和明の各供述を総合しても前記押印は訴外会社による融通手形等の濫発を防止することを目的とし、そうではない商業手形であることの証として押捺されたものであって、この確認の印が手形の支払保証を意味するものでもなく、また被告と訴外会社との間でこの種の手形に被告が支払保証ないしは重畳的債務引受をなす旨の合意もなされていなかったことが認定できる。

もっとも、前掲各証言及び原告代表者尋問の結果によれば、被告の前記確認を受けた訴外会社振出の手形は昭和三九年九月頃まで被告から訴外会社に資金援助を与えるという形でその殆んどが決済されてきたため訴外会社としては最悪の場合は援助してもらえるという漠然とした期待を有していたし、訴外会社の取引先も両者の関係を何んとなくそのように見ていた。

二、他方右各証言と原告代表者の尋問結果によれば原告が訴外会社と本件取引をなすに先だち、被告の財務課長である訴外田中に面談した際、同人から被告会社では保証することはできないと言明されており、また原告代表者としても、被告会社の如き大きな会社が他の手形保証をする際は重役会の議を経る必要があって、一課長の権限ではこれをよくし得ないことも十分承知していた。

そして、本件手形上の確認の印は訴外田中のものではなくて、同課員田口のものである。

それから、同年一〇月頃、訴外会社が被告に預けていた印鑑以外の代表者印を使用して勝手に融通手形を振出している事実が判明したので、被告は訴外会社に対する資金の援助を打切った。

以上の事実が認められ右認定に反する原告代表者の尋問結果は採用できないし、他に同認定を覆するに足る証拠はない。

三、前記認定事実に照すと本件取引当時被告会社は訴外会社に対し事実上資金的に援助していたというに過ぎず、それ以上に同会社又は原告に対して本件取引につき重畳的債務引受ないし連帯保証した事実はないものと認めざるを得ない。

第三、よって次に原告の損害賠償の予備的請求について判断する。

本件手形が原告に対して振出された経緯は前記認定のとおりであって、被告の財務課長である訴外田中が原告代表者に対し、本件手形は「問題なく責任をもって落す。」と確約した旨の原告代表者の尋問結果は証人田中の証言に照して措信し難く、他方、一課長である同人に他会社振出の手形を保証する権限がないことを原告代表者自身承知していたうえ、右田中からはっきりと、被告会社として保証することはできない旨言明されているわけであるから同人と訴外会社代表者とが本件手形の支払が確実であるかの如く欺罔したとする原告の前記主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

第四、従って、原告の主張は以上いずれも理由がないから原告の請求を棄却する<以下省略>。

(裁判官 牧山市治)

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